じゃかるた新聞(1/26)に、小川忠国際交流基金東南アジア総局長の書評が出ていました。
この国で育ちつつある、市民社会の連帯の拡がりを考える時、その源流を探る上で重要な手がかりとなるのが、最近刊行された『サストロダルソノ家の人々 ジャワ人家族三代の物語』だ。現代インドネシア文学を代表する作家ウマル・カヤムが1992年に発表した『パラ・プリヤイ 一つの小説』の全訳である。
評者は、かつて拙著『インドネシア 多民族国家の模索』(岩波新書)のなかで、小説にこめられた作者ウマル・カヤムのメッセージを紹介した。スハルト体制全盛時代にあって、インドネシア独立時に掲げられた民主精神は色あせ、社会の民主化をこばむ保守的思考に固まった新貴族(プリヤイ)が登場しつつあることに、作者は警鐘を鳴らしたのである。カヤムは、真の「プリヤイ」たる者は、家柄や財力ではなく「小さき民」へのまなざしを持つ者であると強く訴えていた。
最後に付言しておきたい。「インドネシアの心」を深く知る上で、文学作品を読むことは最も有効な手段の一つである。にもかかわらず、欧米文学に比して、東南アジアの文学が邦訳され、一般読者の目に触れる機会は依然として限られている。大作『パラ・プリヤイ』の全訳に挑戦した翻訳チームと、地道に東南アジア文学を出版してきた段々社に敬意を表したい
小さき民へのまなざし 書評「サストロダルソノ家の人々 ジャワ人家族三代の物語」 ウマール・カヤム著(後藤乾一・他訳) 評者・小川忠国際交流基金東南アジア総局長
http://www.jakartashimbun.com/free/detail/9033.html
<アジア文学館>シリーズ
「サストロダルソノ家の人々 ―ジャワ人家族三代の物語―」
ウマル・カヤム 著
後藤乾一/姫本由美子/工藤尚子 訳
段々社
<アジア文学館>シリーズ
定価(本体2,900円+税)
詳細
http://www.interq.or.jp/sun/yma/
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近刊:『サストロダルソノ家の人々〜ジャワ人家族三代の物語』(インドネシア文学)
http://gadogado.exblog.jp/17074806/